ある朝、いつものように勤務中に車で外回りをしていると、路肩に立っている美人の女性が目に入った。彼女は何かを必死に求めるように手を挙げていた。その姿に一瞬驚きつつも、何かに引き寄せられるように車を停めた。
「すみません、乗せていただけませんか?」彼女は疲れた表情ながらも、必死な様子で頼んできた。
「もちろん、どこまで行くの?」と、俺は車のドアを開けて彼女を乗せた。最初は少し警戒していたが、彼女はとても礼儀正しく、無理に会話を引き延ばすことなく、静かな車内で穏やかな雰囲気が漂った。
職場に向かう道中、彼女と軽く話をしていると、「実は、今日はどうしても頼れる人がいなくて…」と、彼女がポツリと話し始めた。どうやら、彼女は出張先から帰る途中、ヒッチハイクをしていたという。見た目は華やかで、どこか余裕のある雰囲気だったけれど、その背後には予想もしなかった理由が隠されていた。
「本当は私、あなたが思っているような立場の人間じゃないんです。」と、急に彼女の言葉が真剣なものになった。「実は、私はこの会社の社長令嬢で、家から逃げてきたんです。」
その一言に、俺は驚きすぎて運転を少し乱してしまった。社長令嬢だと聞いても、どこか信じられなかったが、彼女の真剣な眼差しを見て、事実だと感じた。
「家では決められた人生を歩むように言われていて、私はそれがどうしても耐えられなかったんです。」と、彼女は続けた。「でも、もう自分の人生を生きたいんです。だから、今は家を出て、自由に生きることを決めました。」
その言葉を聞いて、俺は何も言えなかった。彼女がどれほどの覚悟を持ってこの選択をしたのかを感じ取ったからだ。
結局、俺はその日彼女を職場まで連れて行くことになった。そこでは、会社のことを少しだけ話した。彼女は、社長令嬢としての立場から自由に生きることに大きな抵抗を感じていた。だけど、やはり自分自身で選びたいという気持ちが強かったらしい。
「あなたがそう決めるなら、応援します。」と、思わず心から言った。その時、彼女は安心したように微笑んだ。
その後、彼女は会社にはいられず、再び家族の元へ戻る決心をしたものの、彼女の決意に対して俺は深い尊敬の念を抱くようになった。たとえどんな背景があっても、自分の人生をしっかりと選び取ろうとする姿に心を打たれたのだ。
彼女が家族に戻った後、俺は彼女が見せてくれた強さに励まされながら、自分ももっと自分らしい選択をして生きようと思えるようになった。それは、たった一度の偶然の出会いが、人生を大きく変えるきっかけになった瞬間だった。